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最短で最適解を出す「頭のよさ」はもう要らない デザイン力の真価【川上浩司・後編】

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは何か?その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく本連載。 今回は、京都大学デザイン学ユニット特定教授、川上氏にインタビュー。川上氏は、もともとはAIの研究者。AI時代が騒がれる今の時代、研究者の視点から語っていただきました。

2018.03.01.Thu

就活生の上位5%に当たる「就プロ」読者は、現在20代前半。2050年には、まさにリーダーとして組織で活躍している人材も少なくないでしょう。

 

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは何か?

 

その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく「就プロ」のオリジナル連載。今回は京都大学デザイン学ユニット特定教授、川上浩司(かわかみ・ひろし)さんに聞きました。

 

AIがこの先進化を続けても、「デザインすること」は人間にしかできないと予測する川上さん。「デザイン力」の秘密とは?

「新しいもの」には2種類ある

前編ではAIの限界を痛感されて「デザイン学」に取り組まれるようになるまでの経緯を伺いました。後編では、現在のご専門「デザイン学」について詳しく教えてください。

川上浩司さん(以下、川上):「デザイン学」というと、よくグラフィックデザインやファッションデザインと似たような分野だと誤解されるんですが、私自身は工学部出身です。

簡単にいえば、これまでになかった新しいソリューションを考え出す学問ということになるでしょうか。

—新しいソリューション?

川上:「新しいもの」には2種類あると思うんです。1つは、組み合わせが新しいもの。もう1つは概念そのものが新しいもの。

たとえば、レゴブロックは部品の種類が無数にあって、それを組み合わせることで過去に見たことのないような作品をいくらでも生み出せます。

でも、この作業は単に新しい組み合わせを発見しただけです。世の中で「新しい」とされているものは、かなりの部分前者だったりします。

—今までにないまったく新しい概念を生み出すこと=デザインなんですね。そして前回伺ったように、それは当面AIにはできないだろう、と。

川上:少し前に、アメリカの大手法律事務所がAIを開発しているベンチャー企業と契約を結んだというニュースが流れました。

今のところ主に破産に関する法律のアシストをAIが弁護士にするという形のようですが、法律やその改正内容、判例などを大量に読み取り、それに基づいてさまざまな問いに答えてくれることが期待されています。

ただ、それも結局「読み取った知識の組み合わせ」の域を出ないわけです。

他にもたとえば、1980年代から1990年代にかけて盛んに研究されいた「ジェネティック・アルゴリズム」。

ダーウィンの進化論をコンピュータ上で模倣して、新しい種を生み出すように最適解*を導くアルゴリズムです。こう説明されると、なんか結構ワクワクしませんか?
*正確には準最適解 。本当に唯一無二の最適かは保証できないが,限定された範囲では他よりパフォーマンスの良い解のこと。

—しますね。

川上:でも、ね、別にこれも聞こえほど革新的で新しいものを生んでいたわけじゃないんです。

というのも、一直線状や樹状に並べた文字列や数字を遺伝子に見立て、それに解の候補をコーディングしていろいろと組み換えながら、過去に存在していなくて、かつ適応度の高いものを見つけては「解」と呼んでいるにすぎないからです。

つまり、これも結局は「組み合せ」です。膨大な数の文字列から優れた組み合わせを見つけ出すだけでも、確かに知的で高度な作業ではあるんですが。

—確かに、そう考えると真の意味で新しいものを生み出すって、難しいですね。

これからは「自分の専門分野+デザイン力」

川上:AIにできるのは、せいぜい「今あるもの」をもとに新しい組み合わせを見つけること、あらかじめ準備された無数の解の候補からパフォーマンスの高いものを選ぶことです。

それに対して、「答えが知られていないところに答えを作る」のが、今私が取り組んでいるデザイン学です。つまり、真の意味で新しいことを生み出そうとする学問ですね。

—どんな人がデザイン学を勉強しているんですか?

川上:いろんなタイプがいます。京大デザイン学の特徴は、履修生が自分の主専攻を持っていて、デザインを「副専攻」として学んでいる点。

つまり、機械工学、建築学、情報学、教育心理学、経営管理などの主専攻があって、それと掛け合わせてデザイン学をやりたいという学生たちです。

—どんな専門分野でも「デザイン学」が必要とされているわけですね。

川上:「専門分野+デザイン学」なのかもしれませんね。前回話したヒモと板の話に戻れば、板やヒモをそれぞれ深く研究しているところに、デザイン学が介在することで「ブランコ遊び」という新しい仕組みが生み出される可能性が高まるでしょう。

—それぞれの専門家が「デザイン」の発想で繋がることで、社会全体で革新的なものが生まれやすくなるではないか、と。

川上:社会全体といえば、京大デザイン学は産学連携にも力を入れてますし、実は、履修生の中には、大学を卒業後就職してから戻ってきた人も多いんです。

前職は、一般企業から公務員やマスコミなどさまざま。経営管理の職に就いていた方も少なくないですね。

最初から「デザイン学」を目指して入学するというより、専門分野を学んでいてふと隣を見たらあったから、「おもしろそうだしやってみよう」というノリですね。

本当の「頭のよさ」とは何か?

—川上先生は著書『京大式 DEEP THINKING』(サンマーク出版)の中で、最短で最適解を見つけられる「頭のよさ」よりも、試行錯誤ならぬ思考錯誤を続けながら新しい選択肢を考え出そうとする方が、大事だと語られています。

いわゆる「頭のよさ」と、0から1を生み出す「デザイン力」はどういう関係にあるのでしょうか?

川上:まず、最短や最適など「最」の字を使える場面は、アカデミックな世界ではとても限定されていることを断らせてください。

その上で話すと、ビジネス界で言うところの最短で最適解を出そうする「頭のよさ」とは、要するに効率的であることですね。でも、物事を効率的にやることは、AIにもできちゃうんです。むしろ非常に得意です。

最初の話(前回を参照)に戻れば、AIにはできない「人間らしい活動」をやろうとすると、効率よりも思考錯誤しながら深く考えることの方が重要になってきます。

ところでみなさん、「効率的=合理的」だと思っていませんか?

—思ってますね。

川上:ですよね。でも、実は「効率的」と「合理的」は別物で切り離せるんです。

「効率的=合理的」と信じるのは、一つの宗教のようなものです。あたかも真理のようにされているけれども、それを信じる根拠はないわけです。

—社会人として仕事をしていると、世の中で効率性のプライオリティが高いことは否が応でも感じます。でも、実はたくさんある価値のうちの一つに過ぎない、と。

川上:そう。「合理的」とは、「理にかなっている」ということですよね。そう考えると、効率こそがこの世の唯一無二の理(ことわり)って決めつける根拠がないでしょう。

そして、たくさんある「理」の一つとして、「人間らしくあること」を選ぶこともできるわけです。

効率よりも人間にしかできないことを突き詰める姿勢こそ、合理的だとも考えられる。何を自分にとっての「理」、社会にとっての「理」にしていくか。これを定めるのはリーダーの役割かもしれませんね。

—既存の枠の中で十分パフォーマンスを発揮できることも大切ですが、リーダーにはあえて「新しい理(枠)」を生み出そうする必要もあるのかな、と。「人間らしさ」を追求することで、それが社会のモラルになっていくのかもしれないですね。

妄想力のある人がリーダーになる時代

川上:結局、デザイン力って妄想力なんですよね。なーんにもないところから、新しいものを想像して形にしようとするんだから、妄想以外の何ものでもない。

実はここまで、意図的に「エリート」という言葉を使っていません。というのも、この言葉の意味が自分でもよくわかっていないから。

でも、もし「リーダー」と言い換えてもいいのなら、これからの時代に必要な資質は「妄想力+実装力」ですね。

おもろい話を思いついて、それを実際に人を動かして形にすること。これがないと、社会の中でコマとして使われ続けることになるんじゃないでしょうか。

—デザイン力のあるなしで、社会の中の立ち位置も決まってくる、と。

川上:デザイナーかリーダーになる人は、妄想力のある人だと思います。リーダーに妄想力が不可欠であることは、2050年に限らず、いつの時代も同じだと思うんです。

ただ、これまでには特殊な状況もありました。妄想力がなくてもある手順を効率的に踏む能力に長けていればリーダーになれたという状況は、人類史上すごく珍しかったのだと思いますね。

—デザイン力をもって新しい「理」を創造していくのが、AI時代のエリートの役割である。私自身「効率的=合理的」と考えているふしがあったので、川上先生のお話には深く考えさせられました。ありがとうございました。

次回はヘイグループ・シニアパートナーの山口周さんに「2050年を生きる力」を聞いていきます。

前回:究極的に人間にしかできないことは何か? 元AI研究者が出した結論【川上浩司・前編】
次回:外資コンサルとはどういう仕事か【山口周】

(構成:就プロ編集部・青山裕子)

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