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究極的に人間にしかできないことは何か? 元AI研究者が出した結論【川上浩司・前編】

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは何か?その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく本連載。 今回は、京都大学デザイン学ユニット特定教授、川上氏にインタビュー。川上氏は、もともとはAIの研究者。AI時代が騒がれる今の時代、研究者の視点から語っていただきました。

2018.02.23.Fri

就活生の上位5%に当たる「就プロ」読者は、現在20代前半。2050年には、まさにリーダーとして組織で活躍している人材も少なくないでしょう。

 

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは何か?

 

その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく「就プロ」のオリジナル連載。今回は京都大学デザイン学ユニット特定教授、川上浩司(かわかみ・ひろし)さんに聞きました。

 

現在ある職業のうち49%が2025〜2035年の間に人工知能(AI)に置き換えられると予測されている中*、最後まで人間に残される役割とは?
*野村総合研究所とオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らの共同研究で2015年に推計されたもの。

 

川上さんはもともとAIの専門家。前編では、川上さんが考えるAIの可能性と限界について聞きました。

AIの限界は早くから見えていた

—川上先生はAI研究からキャリアをスタートされています。やはり、AIには可能性を感じていたのですか?

川上浩司さん(以下、川上):可能性は感じていたけれど、かなり早い段階からその限界にも薄々気づいていたという感じでしょうか。

—かなり早い段階とはいつ頃ですか?

川上:私は1964年生まれなので、大学の工学部でAIの研究を始めたのは1980年代後半。第2次AIブームの頃(1980年代)は、知識をたくさん教えれば教えるほど、AIは賢くなるとされていました。

まさに私が研究していた知識情報処理と呼ばれる分野ですね。でも、当時からすでに研究者の間では、「知識さえ与えれば、どんどん賢くなるなんて幻想じゃん?」という雰囲気はなんとなく出てきていました。

—今から30年ほど前の話ですね。

川上:その当時、AIは人間の知能を模倣するものとされていました。つまり、もっとも模倣しにくいものこそ、もっとも知的で、もっとも高度ということ。

そこで私も人間の知能の中で一番模倣が困難なものは何だろう?と考え続けていたわけです。

—そして、その結論は?

川上:AIにとってもっとも難易度の高いことを考え続けた結果、自分の中で「デザインすること」ではないかという結論が見えてきました。それで、ものを設計(デザイン)するコンピュータを作ってやろう、となって。

でも、それが不可能だろうということは、実はかなり早い段階から直感的にわかっていました。1980年代から薄々気づいていて、1990年代には確信したという感じですね。

—その後もAIの進化は続いて、現在は第3次AIブームのさなかにあると言われています。囲碁や将棋、チェスの世界でもAIはよく話題になりますよね。

第3次AIブームのさなかに思うこと

川上:ここでAI研究の流れを簡単に整理させていただくと、第2次AIブームでは、知識情報処理の次に一時は低調だったニューラルネットワークが再興してきました。

これは動物の脳神経細胞の構造をマネてプログラムの中に埋め込むいう発想。現在AIの立役者となっているディープラーニングもニューラルネットワークを学習させる方法なんです。

—ディープラーニングといえば、囲碁AI「アルファ碁」にも組み込まれている学習手法ですね。

川上:そうです。ところが、1990年代の半ばには「やっぱりニューラルネットワークも無理ちゃうん?」という空気に変化していきます。

というのも、ほとんどの研究者が「過学習」がどうしても避けられないと思い込んだからです。ネットワークをどんどん大きくしていけば、教えたことは(ノイズも含めて)度が過ぎるほどに覚えてくれるけれど、それ以外を補完できない。

頭デッカチになるほど、教えられていない情報に対しては「知りません」と反応してしまうわけです。それでは使いものになりませんよね。

—その後、2010年あたりから第3次AIブームが到来して、現在ディープラーニングなどを活用したAIが各方面で活躍しているわけですが…。

川上:正直なところ、ディープラーニングの誕生は予想外でしたね。ネットワークを何層にも深めて(=ディープにして)構造をリッチにしても「過学習」に陥らない学習(=ラーニング)アルゴリズムが見つかってしまった。

「無理ちゃうん?」と半ば時代遅れとされていたニューラルネットワークの分野から、まさかディープラーニングのようなスターAIが出てくるなんて、私も含めて予想できなかった研究者は多いでしょう。

—第4次AIブームはいつどんな形で来ると思いますか?

川上:それが読めてたら、私はAIをやめてなかったです(笑)。まだまだ見えないですね。

AIに「ブランコ」は生み出せない

—専門家として、AIの限界には1980年代から気づいていて、1990年代には確信したとおっしゃっていましたが、その「限界」について詳しく教えてください。

川上:まず、AIには「弱いAI」と「強いAI」があります。

「弱いAI」とは、結果的に人間の知的処理のようなパフォーマンスを得られればよしとするAIで、特定の分野で問題解決をしてくれるものです。

IBMが開発した「ワトソン」をもとに作られ、チェスや法律などの分野で活躍しているAIは「弱いAI」に分類されます。

ニュースで話題になるものは、ほぼこの「弱いAI」です。それに対して「強いAI」とは、まさに人工的に作られた知能で、「人間のような心を持ち合わせる」とまで言い切る研究者もいます。

—つまり、「弱いAI」はこの先もどんどん進化を続けていく未来がはっきりと見えているけれど、「強いAI」に関しては先が見えないということでしょうか?

川上:そうですね。現在、AI研究というとかなり実用に寄っていますが、第2次AIブームの頃はかなりロマンがある時代だったんです。

AIを通して「人間の知能とは何か?」という根源的な問題を考えていました。つまり、今で言う「弱いAI」は「強いAI」の実現に向かう道中だと考えていたというか。

—究極的に、人間にできて、AIにできないことって何なのでしょうか?

川上:やっぱり「デザイン」でしょうね。

たとえば、ここに2本のヒモと1枚の板があるとします。AIにできるのは、ヒモの構造や機能(細長い、柔らかい、結べる、伸びる…)と板の構造や機能(硬い、穴を開けられる、割れない…)を定義して、それぞれの機能をもとに無数の組み合わせを考え出すところまで。

その組み合わせの中には、板の両端にヒモを結んでみることも含まれているでしょう。でも、それを木にぶら下げて人が乗ると、揺れて楽しいというところまでは導き出せないんです。

つまり、ブランコという遊びをデザインすることは、AIにはできないわけです。

—「ブランコ」と同じ形は思いついても、それで「遊ぶ」という発想はAIからは出てこない、と。

川上:まさに。「乗ると楽しい」というところまで設計者がイメージするから、ブランコという新しい遊びの概念が生まれるんです。

—結局、それは何の差なのですか?

川上:何の差なんでしょうね。なぜ、デザインが人間にはできて、AIにはできないのか?

それはAI研究の永遠の謎だと思います。でも、人間にはできちゃうんですよね。人間は子どもの頃から「組み合わせたあとに何が起こるんだろう?」と想像し続けていますよね。

一種の妄想力だと思うんですが、組み合わせで終わらないのが人間なんです。

—「組み合わせ」で終わらないのが人間。そこに2050年を生きるヒントがありそうですね。

後編では、川上さんが人間にしかできないという「デザイン」について詳しく聞いていきます。

 

前記事:本物のエリートは「詰め」が違う 外銀・外コンに就職したい君たちへ【小宮一慶・後編】
後編:最短で最適解を出す「頭のよさ」はもう要らない デザイン力の真価【川上浩司・後編】

(構成:就プロ編集部・青山裕子)

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